しく心に味わわせる力を持っている。
金のことについて話すのをきき、こんな感銘を与えられたことは珍しいことであった。
この印象からいろいろ思い出すことがあった。全然わけは違うが、やはり金ならぬ金とでもいうような連想の一つとして――
六つか七つ時分、祖母が田舎に一人暮していて、時々上京して来る。いつも急に思い立って来るらしかった。大抵早朝上野についた。そこから札を買って乗る人力車で家まで来る。その知らせで母が驚いて起きて来、祖母に挨拶がすむと、
「一寸電報でも前もって下さればようございましたのに、いつも不意でお迎えも出ません」
とやや気むずかしげにいう。祖母は、やっと火が入ったばかりの火鉢の前へコートを着たまま坐ってい、煙草を吸いつけながら、
「おれも来る気なんぞ昨日までなかったが、急に考えるとはあ眠られないようになって出て来たごんだ」
と、内心の訴えを間接に表わす。どちらも、笑顔で最初の一言をきき合うというようなことはなかった。その点祖母も母も不幸な廻り合わせで一生過してしまったわけだが、その祖母が秘蔵なのは私であった。少し大きくなってから、夏休みなど飯坂や五色温泉に連れて行
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