おうっていっているんです――ね、自分で縫うね」
「もち! 縫うわ、×子うまいもんよ」
「ハハハ、手袋はもう買ったからいいね」
「ええ結構!」
「――私は貧乏になれて一人だと平気で金のことなんぞ忘れているんだが、このひとが来てから少しそんなことも考えなければならなくなった」
一緒にいる若い女のひとは小猫のような感じで、甘え切って合点合点をし、ぱっと睫毛の反った眼で人々を見廻している。対手が、そのひとの全存在を心の上にたっぷりと抱きかかえ、実に混りけない歓びで愛す者に買ってやれる品々を話しているのを聞いていたら、何だか彼が持とうとしている金は、世間に通用するただの金ではないような気持がして来た。彼の心持には金そのものが儲かるという世俗な利慾の跡などは微塵もなく、さあこれで買って遣るぞ! という明るい濃やかな勢こんだ生活の嬉しさがキラキラ燦き渡っているのだ。金がただの金というだけでない、彼のその女のひとに対する愛が金までを一種独特な優しさ、可愛さ、真心あるものに感じさせたのだ。彼の純粋なよろこびは、ききてに忘れ難い感銘を与え、思い出すたびにこの世には祝福された金というものも間々あることを嬉
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