百銭
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)木賊《とくさ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二七年一月〕
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或る洋画家のところへ、来月お金が入ることになった。ふだんその人は真面目に勉強しているのだが、或る理由からお金がちっともとれず、一緒に暮している女のひとと生活する必要のためには、夜、餉台の上まで低く電燈を引っぱり下してその下で、細かい細かい面相で芥子粒位のものを描く仕事をしなければならない。細かいその仕事は金粉や銀粉をつかってする仕事だから、たった一つの電燈の光でも四畳半の穢い部屋の中では随分美しく、立派に光りさえもするが、何にしろそういう仕事で食って行かなければならない。その中へ、来月纏ったお金が入る。お金が入ったら、何と何と買おうと思っているかということを、その人はそれは楽しげに話した。
「先ずこのひとに靴を一足買ってやってね、羽織も拵えようっていうんです――着物なんぞ、まるでないんですからね。私も羽織は一枚いる。――それからオーヴァが欲しいっていうけれどとても駄目だから、一つ布地で買
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