くさ》の恰好や色と云い、少しこわいような、秘密なような感情を起させる。積んである座布団に背を靠せて坐り、魔法の占いでもするように、私は例の百銭をとり出す。それを一つずつ、薄すり塵の沈んだ畳の上に並べたり、ぐるりと畳の敷き合わせに沿うて立たせて見たり転したりするのだが、手に握っているうちに銅貨が暖まって来る工合、暖まった金属から発する微かな一種の匂いなど、妙に生きもの的な心持を起させた。憎らしいような面白いような気がこみ上げて来、盛りあげた銅貨をわざと足で崩す。
 飽きると、私はその百銭を再び袋にしまい、歩調に合わせて膝にぶっつけザックリ、ザックリ鳴らしながら廊下を歩いた。その時はもう一人ではない。毛糸の手編靴下をはいた弟が二人、
「軍艦《グンカン》・軍艦《グンカン》・グンカノヘー。グンカン・グンカン・グンカノヘー」
と声高らかに合唱しつつ跟《つ》いて歩む、日露戦争が終ったばかり頃のことであったから。その百銭は、そうやって持って歩いて鳴らしているうちに、いつかどうかして失くなってしまうのが常であった。暫く忘れていてふと思い出し、いくら考えてもどうなったのか分らず袋のかげさえ見当らない。ど
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