界への飛翔という風に、現実の敗北を粉飾してその心にうけとったのであった。
その時十三ばかりの少女であった妹は、自分も自殺したら母が少しは可愛がってくれるようになるのだろうかと思い、散々泣いたということを、後になってそっとうちあけたことがあった。
明治開化期の影響をうけて、宗教だの霊降術だのに対しては批評をもって暮して来た母は、弟の死後、一種剽悍な惑溺で息子の霊の力が母である自分を守っているということを信じるようになった。この霊との交渉においては、夫も他の息子や娘もいっさい除外された。
独占的な霊との結合の感情は、日常生活において母を寛大にするよりも、却って主我的にしたのであった。
一九二九年の春から秋にかけ、父はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいた私をのぞいた一家四人をひきつれて欧州旅行を企てた。父は全く母の最後の希望を満すためにこの身分不相応の旅行を決行したのであった。息子夫婦と末の娘までをつれて行ったのは、すっかり健康の衰えている母がいつどこで最後の病床にたおれるかもしれない、その時子供らと離れているのは母にとってまことに苦痛であろうと云う父の深い思慮から出
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