た。
「私の戒名なんか並べると、荻村にいやな顔をされそうだわ、何だか――」
「馬鹿いっちゃいけない!」
 祐之助は急に憤ったように遮った。
「れっきとした荻村慶三郎の細君でありながら、なぜ戒名を並べていけないんです? 第一、何だ、姉さんは何ぞというと門下の人達を気がねしてるが、それが間違いさ。権限を心得させて置かないと、いまに途方もない奴が出るから――」
 夕方、小一郎が帰って来て、その設計図を見た。
「どう思うえ? 小一ちゃん」
「親父らしくないや、ちっとも」
 尚子が、我意を得たというように、
「お兄さんもそう思う?」
といった。
「尚子もそう思ったんだけれど、――何ていっていいかわからなかった」
 やや暫らく黙って眺めていたが、小一郎は母に尋ねた。
「きまったの? こうするって」
「誰にも異存がなけりゃこれになる訳さ。――お前、どっかこうしたいと思うところがあるの?」
 小一郎はなぜかむっつりして、人さし指で唇を弾いていたが、やがて、
「まあいいや」
と、あきらめたように立ちかけた。
「何だよ――いって御覧よ」
「いい。母さんがいいと思えばいいさ」
 小一郎には、母の戒名が並んで
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