ら一枚大きい石がはまってるでしょう、ここがとりはずし自由で、内が龕《がん》になっているというわけさ。――どうだね」
 彼は、覗いている尚子にいった。
「立派なもんだろう? このとおりの色の大理石を使うんだぜ。型だってなかなか凝ったものだよ」
 尚子は、疑わしいような表情で、淡いチョコレートに黒の斑入り大理石を使い、イオニア式台石か何かかさばった図案を見守った。
「――この――御戒名書いたところ――こういう風にはすっかいになるの?」
「そうそう、ここが工夫したところだ。真っ直立ったのじゃ平凡だが、ここがこう羊皮紙を巻きのばしたように――よくローマ人の絵にあるだろう――こうなって、左右の下にどっしりこの台が出ている。これで、ただの墓じゃあない、立派なモニュメントになるのさ」
 羊皮紙になぞらえたところに、故人の戒名と並べて幾枝の戒名も書いてあった。
「どうです? 文学者らしく堂々としていていいでしょう」
 幾枝は、不決断に、
「そうね」
と答えた。
「よかりそうに思うけど――まあ一遍織田さん達にも見せなけりゃ――あの人達が何ていうか――」
 彼女は、悲しいような、詰らないような笑いを浮かべ
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