いるのが何だか変に感じられた。まだ生きている人でもあるし、子供時分からの印象によって、書斎にばかりいた父、茶の間にばかりいた母、あんなにも内容の違う生活を営んでいた二人が、戒名を並べて納まるということが一種不自然なように感じられたのであった。しかし、彼は、そのように感情上微妙な問題をどういい現わしてよいか判らず、沈黙した。

 一周忌の法要のとき、祐之助がたんのうした立派さで原案通りの墓が出来上った。彼は世話をやいて写真師を呼んだ。墓前に並んだ遺族一同のと、別に墓だけのを撮影させた。故人の人となりを熟知している知友はどういうものかその墓の前に立つと、故人の気品と皮肉の相半ばした生彩ある眼差しを思い浮べずにおられなかった。それは、重苦しい自分の墓を横の方から眺めながら、
「こう発言権を褫奪《ちだつ》されてはやりきれんね」
と、ゆっくり葉巻の灰をおとして、苦笑していそうに思われた。



底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」河出書房
   195
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