それはよかった。もしまだなら、石倉と懇意にしてるから一つ呼んで取らせようと思いましてね――誰にさせました?」
「内海さんです」
祐之助は、
「ふむ、ふむ」
とうなずいた。
「あれならよかろう」
納棺後、祐之助は、中学五年の長男に向って、
「さて、これからが小一郎君のしっかりせんならん時だよ、父さんは偉い人だったが、その跡をさらに立派に立てるのが君の責任だ。へっぽこな親父をもったより骨が折れる。覚悟が出来ているかね?」
小一郎は、厭な顔でちょっと叔父を見たぎり黙っていた。
「――何をやるかね、専門に」
「……」
小一郎の若々しい、純粋な反感を感じ、祐之助は苦笑を洩した。
「――君も父さん似で、ちっと変ってるな」
夜になって、十六の尚子が母親をぐんぐん納戸のところへ引っぱって行った。
「何ですよ」
「市叔父さん、永くいるの」
「なぜ?」
「だって――あの叔父さん私嫌いだわ――」
尚子は、泣き膨れた眼で凝《じ》っと母親を睨むように見上げた。
「――皆いやがってるわ――父さまだって――」
といいかけ、精神感動の鎮まっていない尚子はわっと泣き出して母にきつくかじりついた。
「何だねえ
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