にとっては三人|同胞《きょうだい》の大切な一人なのだが、ひどく良人の荻村と気質が合わなかった。荻村は、仏文科出の小説家であった。良人が第一流の芸術家として尊敬されるのは満足だが、神経の鋭さや、趣味のゆずらなさから、幾枝にすると、迷惑な場合も少くない。人格に圧されて承服はするが、本当に同感はされない。荻村の家庭における位置はそういうものであった。市原との間のうまくゆかないのも、幾枝の気持で判断すると、そういう目に見えない良人の癖が第一の原因であるらしかった。然し、三四年前、長い間、今病室になっている書斎で相談した祐之助が、
「――どうも義兄《にい》さんには敵《かな》わないや」
と、延した小指の爪で、髪のわけめを掻き掻き照れかくしの剽軽《ひょうげ》た風で茶の間に出て来て以来、上京しても、ほんの申わけに顔を出すぎりになった。しかも幾枝と話すだけで、彼女が、
「ちょっと見て来ましょうか」
と立ちかけると、彼は大仰に両手でこれを制した。
「いいよ、いいんですよ、私はすっかり嫌われちまったんだから――勘当さ」
「冗談じゃない」
「本当ですよ」
「――ほんと?」
すると、祐之助は、
「ハハハハハハ
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