ブル》に、菓子や蜜柑がどっさり出ている。下の男の子とそこに中腰をしていた織田が立って夫人を迎えた。
「お呼び立てして恐縮でした。――実は今鈴木君や何かと話が出たんですが――神戸の市原さんへお知らせがまだなんですが――どうしたもんでしょう」
 袂を頭ごしはねのけて羽織の上から母の腰にまといついた末の子の肩を抱きよせながら、幾枝は、考え迷ったように呟いた。
「そうねえ」
「――先生のお心持はわかっているんですが――どうも外の場合と違うから」
「そうですよ、あとでまたね――じゃあこうして下さいませんか、私の名で一つ電報を出して置いていただきましょうか。来いなどといってやるには及びません、ただ知らせだけ。――どうぞ」
 火鉢のところへ坐ると、手伝いに来ている幸子が、茶を注《つ》いで出した。
「――あっちもこっちもだからお大抵ではありませんですね、ほんとに。――暫く横にでもおなんなさいまし、私あちらに参っておりますから」
「ええ、ありがと」
 幾枝は、熱い番茶をのみながら、市原へ電報を打たせたことについて、こだわった気持になっていた。市原は、神戸で相当な請負業を営んでいる彼女の実弟であった。幾枝
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