宜だった。その方が人民の伝統的な国びいきの感情を刺戟し、満足させ、世界のどの文明国よりもやすい労働賃銀で一台の自転車にしろ生産して、より多い利潤率を保つことが出来やすかったから。資本主義の権力がいつも左翼を嫌悪する原因がここにある。いわゆる労働問題をおこしたり、日本の労働者の賃銀は世界水準から半奴隷的賃銀とされていること、婦人の労働がさらにその半分の賃銀しか得ていないからこそ、明治以来日本の繊維産業は世界市場で資本家のために利潤をあげてきているというような事実をあからさまに語り、現代の社会機構の見とり図を人民に与える社会主義者は、「赤」としてとりしまった。「赤」は支配者にとって必要とするより速く、広汎に具体的に人民層の社会的位置づけと勤労階級の実力の意味と展望とを目ざまさした。そして資本主義が発展すればするほど一方では勤労階級の自然的な社会自覚と国際連帯のテムポは早まってくることはさけがたい。だから、権力はいよいよ反資本主義的な社会要素を嫌悪する。まして、資本主義がファシズムの段階に入り、全く人民の犠牲そのものによって戦争を強行しようとするとき、まさに大量的に屠《ほふ》られようとする生
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