平和への荷役
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)公方《くぼう》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)婦人作家大塚|楠緒《なお》子の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから10字下げ]
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[#ここから10字下げ]
――船が嵐にあって沈まないためには積荷が均衡をもって整理されていることが必要である。――
[#ここで字下げ終わり]

 わたしたちのまわりに、また戦争に対する恐怖が渦まきはじめた。一部には、その恐怖が病的にさえ高まってゆきつつある。それだのに、どうしてその戦争に対する恐怖の激しさに相当するだけの、きっぱりした戦争拒否の発言と平和の要望が統一された世論としてあらわれて来ないのだろう。兵火におびえる昔の百姓土民のように、あわれにこそこそと疎開小包をつくるよりさきに、わたしたちは落付いて観察し判断するべきいくつかの重大なことを持っていると思う。わたしたち自身を恐慌から救うために――
 日本人の心には、戦争を一つの「災難」のように思う習慣がないだろうか。しかも、どこかに投機的な
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