示している。第三者として考えてみてもそれはそうだと思う。ニューヨークのあの摩天楼の櫛比《しっぴ》した上に巨大な破壊力がおちかかる時の光景を想像すれば、どんな蒙昧な市民も、それが、ノア洪水より、惨《みじめ》な潰滅の姿であることを理解するだろう。もし、アメリカの市民感情に戦争挑発にのせられる何かの可能があるとすれば、それは自身の近代的戦力の影を、逆にわが身の上におとしての戦慄であろう。わたしたちは、よく知っていなければならない。アメリカのフレンド派のクリスト教徒三万人は、第二次大戦に、良心的参戦拒否をした。そして負傷者その他の救護に著しい貢献をした。アメリカの反ファシスト同盟はついこの間フランスからキュリー夫人などをよんで会議した。自由市民同盟、人権擁護同盟その他の平和的組織がいくらかあって活動している。アメリカが総体的に戦争を欲しているといえば、それはアメリカ全人民への限りない侮辱である。アメリカのもっている困難は第二次大戦で拡張されすぎた生産力の合理的はけくちの発見である。自由競争で、きょうまで拡大してきたアメリカが、世界のどの資本主義国より広告心理学の研究で一頭地をぬいていることは、
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