かったことは、当時の大統領ウィルソンの苦衷ばかりではなかった。世界の資本主義経済の網目のなかで、アメリカの富が次第にその国にとって持ちおもりのするものとなりつつある程度につれて、伝統的人道主義の理想は国際的表現にニュアンスを加えてきている。けれども、きょう真面目なアメリカの人々が、第三次の戦争を希望しているとは思えようもない。パール・バックは平和の確保のためにあのように熱心だし、「怒りの葡萄」「真珠」などの作品で世界的なアメリカの作家スタインベックは最近ソヴェトを訪問して「鉄のカーテン」の彼方に温い血をもって勤労し建設し笑い悲しんでいる同じ人間の生活していることを発表した。その記事は日本の新聞にも出た。アインシュタインは何と云っているだろう。原子力の人類平和的利用のためにアメリカの科学者を中心として世界の科学者が努力している。ユネスコの精神は何であろうか。資本家であり、社会主義者でさえないウォーレスが、第三党をつくって、世界平和のための可能を増大することに精力を傾け、それを支持する勢力が労働組合内に拡大しているのは何故だろう。これらの事実はアメリカの内部につよい平和への欲求があることを
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