非国民という言葉におびやかされ、おそろしい治安維持法をよけようとして「そういう考えをもっている人からは」自分を別のものとした。それはどうしてだっただろう。
明治以来の日本の支配者が人民に植えつけた戦争観をそっくりそのままもっている大多数の人々は、相変らずそれをさけられない投機的な災難として楽観的にうけとった。弱い日本の資本主義がどんな危険な冒険に着手したかということを人民から覆うために国際的経済政治統計はもちろん、文化の国際的な交流さえ禁じた。左右にめかくしをかけられた人民は、戦争遂行という前方の外を見ようにも見られない状態におかれた。はじめは楽観から赤の理窟と一蹴して、国賊排撃に共感していた人々も、おいおい様子があやしくなって本能的な不安に襲われはじめた。ファシスト権力の狂奔はその時期に入って白熱した。人々の不安を国家存亡の危機という表現に結集させた。ひとことも、軍事的天皇制権力崩壊の危機とはいわなかった。正直な人々は、伝統的な感情にしたがって、国家が危急に瀕しているとき、まだとやかくいっている非国民! 理窟があるならまず協力して勝ってからいうべきであるという心持だった。これは、勤
前へ
次へ
全25ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング