詩と思います今日この頃の私であります。」
「水晶幻想」時代にも、彼は科学の階級性は全然把握できなかった。今は更に進んで「抒情歌」によってとうとう現世[#「現世」に傍点]をすて霊の天上界へまで逃げのびてしまった。
 ブルジョア文学のファッシズムへの道は、群司次郎正や直木、三上の場合のような、だれにでもそうとわかる姿でだけ現れるとは限っていない。この「抒情歌」のようなその反対の消極的な外見をもっていて、十分にファッシズムが利用する精神への道も開き得る。
「抒情歌」にあらわれた神秘主義は、それが美しければ美しいだけ今日の現実から目をそらしているという点で、第一、支配階級の役に立つ。
 第二に、こういう神秘主義は自然と人間との関係の積極性を否定し、人間精神を、運命、目に見えない力の統帥に甘んじさせようという点に、革命的な大衆のより自覚しようとする世界観に霧をかける毒素をもっている。こういう神秘主義を様々の形にかえてコケおどしの慰霊祭のおかげで、支配者たちは自分の利益のために殺した満蒙出征戦死兵の窮迫した遺族からの反抗をふせいでいるのだ。軍国主義をあふり得るのだ。
 イギリスのロッジ博士が戦死し
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