性格の集積を発見してゆくだけの自信と覚悟と勤勉とがなければならないと思う。技術上日本文学がもっとわがものとしなければならない構成力について見ても、根本は、現実把握の力の問題にかかっている。更にこれをさかのぼれば、生活に肉薄した作家の常に正気を失わぬ眼力、人間の幸福に向っての骨惜しみをしない努力とそのための価値の探求・発見の態度にかかっている。あるままを素直に感受する敏感さと、驚きもよろこびも疑問をも活々と感じ得る慧智と、人間の文化の今日までの成果に立っての強靭なる判断力、推理力が、益々作家に必要な稟質となって来ている。このような点では、科学の発展のヒントをつかむ人間精神の活動の瞬間と文学によりゆたかな作品をもたらすモメントと、大変互に似よっているのである。
近頃「事実の世紀」というようなヴァレリーの言葉が、一部で翻訳され、人間が存在する限り、方法的変遷を経て而も決して絶えることのない筈の「ヒューマニズムの終ったところから」「事実の世紀」である現代がはじまっているなどと云われたりしているが、現象追随では、肝心の事実さえつかまるものではない。
パール・バック夫人が、今度の事変について書
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