、獲った者にはそれを遣ろうと、女達の真中に投げ込む。
そして、キャアキャア云いながら、引掻いたり、転《ころが》し合って奪い合う様子を、例の横目で眺めながら、
「何たら態《ざま》だ! 馬鹿野郎、そんなに欲しいか、ハハハハハハ」
と、さも心持よさそうに哄笑する。
これが彼である。もう黄棟樹《ニガキ》で頭をたでてもらった豊坊ではない。気前が好くて、道楽者の、稲田屋の豊さんに成り終せたのである。
いくら三里離れているといっても、まさかこのことがイレンカトムに知れないことはない。
豊に対するあらゆる非難は、皆彼の処へ集まっていたのである。
けれども、イレンカトムは、かつて豊が悪い奴だと云ったこともなければ、勿論思ったこともない。彼はただ、困ったものだ、早く目が覚めてくれれば好いと云うだけである。
また、実際イレンカトムは、他の人々が驚くほど楽観していた。
高慢で、馬鹿ではない豊のことだから、遠からずそんな駄々羅遊びには飽きるだろう、そしたら、気に入った女房でも貰ってやれば、少ばかりの借金くらいは働いて戻すにきまっている。これがイレンカトムの考えであった。
彼はそうなるにきまってい
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