風に乗って来るコロポックル
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)殖《ふ》やした

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)昔|譚《ばなし》をしたり、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)武士であった[#「あった」に傍点]という話と、
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[#底本では、括弧(「)からはじまる会話文の2行目から、閉じ括弧(」)のある行まで1字下げ(1行だけのものは字下げナシ)]

        一

 彼の名は、イレンカトム、という。
 公平な裁きてという意味で、昔から部落でも相当に権威ある者の子に付けられる種類の名である。
 従って、彼はこの名を貰うと同時に、世襲の少なからぬ財産も遺された。
 そして、彼の努力によって僅かでも殖《ふ》やしたそれ等の財産を、次の代の者達に間違いなく伝えることが、彼の責任であった。
 混りっけのない純粋なアイヌであるイレンカトムは、祖先以来の習慣に対して、何の不調和も感じる事はない。
 彼は自分に負わされた責任に対して、従順以外の何物をも持たなかったのである。
 けれども、不仕合わせに
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