光っていたのである。
 馬の扱いが巧者になるに連れて、豊は煙草の持ちかたも、酒の飲みかたも覚えた。
 いつの間にかは、馬車賃をちょろまかすことも平気になって、イレンカトムが黒を相手に、ポツポツと種を蒔き、種を刈入れている間に、豊の生活は彼の想像も及ばないように変って行った。
 昨日までの子供であった豊の目前に、急に展開せられた種々雑多の世界に対しても、彼は矢張り、「すかんぼう」を振り廻して飛んで行った息子である。
 行かれる処へ大胆に、陽気に侵入して行く彼の勇気を傷けるものは何もない。
 自分の行為を判断する道徳も、臆病も、持ち合わせない彼にとって、煽動《おだて》の御輿《みこし》に王様然と倚りながら、担ぎ廻られることは決して詰らないことではない。
 ただでは云わないお世辞で、自分の容貌、技《うで》等に法外の自信を持った十七の彼は、借金も自分の代りに償ってくれる者を控えている心強さから、存分の放埒《ほうらつ》をした。
 豊は、時々主人の処へ行って、二三十円立替えてくれと云う。主人の方も、イレンカトムがいるから、雑作なく貸してやる。
 すると、その金で早速、金の彫刻のついた指環を買って来て
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