ると思っていたのである。
 けれども、その年の末、豊の借金のために七頭も土産馬《どさんば》を手放さなければならなくなったときは、さすがのイレンカトムも、心を痛めずにはいられなかった。が、彼は、
「ええ加減に止めるべし、な、豊坊。俺あ困るで……」
と云っただけであった。

        三

 近所の者は皆、年寄《エカシ》は偉い者を背負い込んだものだと云う。悪魔《ニツネカムイ》に取っつかれたように仕様むねえ若者《ウペンクル》だと云う者もある。
 完く、豊が、賞むべき若者でないことは、イレンカトムも知っている。仕様むねえとも思うし、困った者だとも思う。が、彼にはどうしてもそれ以上思えないのである。
 いくらなんと云われても、何をしても可愛いには毫《ごう》も変りがない。どこがどう可愛いのかは分らないが、十人が十人口を揃えて悪く云うときでも、俺だけは余計に可愛いような心持がして来る。
 真実血統があるでもない、この「やくざな若者」が、どうしてあんなにも可愛いかと云うことが、傍《はた》の者の一不思議であるとともに、イレンカトム自身にとっても、確かに一つの神秘であった。
 ときどき、彼は自分と豊
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