育と同じ速力で芽をふいて来たのである。
畑の手伝いでもさせようとすると、
「お父《と》、俺ら百姓なんかんなるもんか!
うんだとも。俺あ、もっともっと偉れえもんになるだ!」
と云いながら、泥まびれになっている親父の顔を、馬鹿にしたような横目でジロリと見る。するとイレンカトムは、曖昧な微笑を浮べて、
「ふんだら、何《あん》になるだ?」
と訊く。豊は、大人のようにニヤリとする。
そして、
「成って見ねえうちから、何《あん》が分るだ? 馬鹿だむなあ、お父《と》おめえは!」
という捨台辞《すてぜりふ》をなげつけて、切角立てた畦《あぜ》も何も蹴散《けち》らしながら何処へか飛んで行ってしまう。
「すかんぼう」を振り廻しながら、蝗《いなご》のように、だんだん小さくなって彼方の丘の雑木林へ消えて行く豊坊の姿を、イレンカトムは、自慢の遠目で見える限り見つづける。
そして、失望と希望の半分ずつごっちゃになった心持で、またコツコツと土を掘り続けるのである。
二
野も山も差別なく馳け廻っては馬を追い、鳥を追いして育った豊は、まるで野の精のように慓悍《ひょうかん》な息子になった。
偉
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