が沈んで、豊坊の身丈はだんだんと延びて行った。
 大きくなるに連れて、クサもなおり、艶のいい髪の毛と、大きな美くしい眼と、健康な銅色の皮膚を持った豊坊に対して、イレンカトムは、完く目がなかった。
 自分の淋しかった生活の反動と、生れ付きの子煩悩《こぼんのう》とで、女よりももっと女らしい可愛がりかたをするイレンカトムは、豊に対してはほとんど絶対服従である。
 強情なのも、意気地ないよりは頼もしいし、口の達者なのも、暴れなのも、何となく、普《なみ》の一生を送る者ではないように思われて楽しい。
 彼がそう思っている事を、いつの間にか、本能的に覚っている豊は、イレンカトムに対しては何の憚《はばか》る処もない。
 一年一年と、感情の育って来る彼は、或るときは無意識に、或るときは故意に、思い切ったいたずらをしては、その結果はより一層深い、イレンカトムの愛情を煽るようなことを遣った。
 生れ付きの向う見ずな大胆さと、幾分かの狡猾さが、彼の活々とした顔付と響き渡る声と共に、イレンカトムに働きかけるとき、そこには彼の心を動かさずにはおかない一種の魅力があった。
 知らないうちに蒔かれていた種は、肉体の発
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