通り、遠くの遠くの方から、シュッ、シュワー、シュッ、シュワーというような響と共に、
 コロポックル、コロポックル
 コロポックル、アナクネ、トゥママ、タックネップ[#「プ」は小書き半濁点付き片仮名フ、1−6−88]ネ
と唱いながら、ひどく沢山のコロポックルが風に乗って飛んで来た。
 (コロポックル云々というのは、コロポックルという者は腰が短かい、という意味であるそうだ。)
 そして、いつも通り男や女の声が、煩く喋り始めた。が平常のように、悪口や口真似ではなくて、今、Y岬へ義経の船が沢山攻めて来たから、早く出掛けて攻め返してやれ、と云うのである。
 義経が攻めて来た?
 そんなことが有るものか! と彼が云い返す。
 すると、コロポックルは、それなら、論より証挙《しょうこ》だから、海岸まで出て見たら、好いじゃあないかと云う。
 そこで成程と思ったイレンカトムは、仕舞って置いた弓矢を持って、ドシドシとY岬へ馳け付けた。
 道もないような林や叢を、息せき切って馳けるイレンカトムの頭の上では、勿論コロポックルが、しきりに何とかかとか云い続けているのである。
 Y岬まで出て見ると、成程、ほんとにそ
前へ 次へ
全41ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング