て、姿を隠した声ばかりで、人《アイヌ》のところへ訪ねて行ったりしたということも同じだし、自分の父親の友達だった者の名や、役人の名等を覚えて、それに就ていう処を見れば、どうしても古いときからいる者だということが分る。
 それに、ああやって風に乗って飛んで来るようなことは、決して体の大きな者共に出来る芸当ではない。
 まして、Y岬の近所に、元コロポックルが棲んでいたという穴居の跡が在るのを知っているイレンカトムは、自分のその判断が、決して理由のないことではなく思われる。
 きっと、コロポックルに違いない、とその次から注意すると、ちゃあんとその声は、自分達は背丈の短かいコロポックルだと云い始める。
 彼はもう、すっかりコロポックルにきめて、山本さんにもそのことを話した。
 どうも何にしろ、男や女の沢山の声が、あっちこっち暴れながら、絶間なく喋るのだから煩《うるさ》くて堪らない。一体、私の親父の時代のコロポックルも、あんなに手に負えないものだったろうか、などと云うイレンカトムの話を聞いた人達は、始めのうち誰も本気にしなかった。
 けれども、だんだん彼がその声を相手に大論判をしている処へ行あった
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