罵ったり、揶揄《からか》ったり、茶化したりするのである。
 魚を焼いていると、魚が食べたいとねだる。米を煮ると、それを呉れと云う。
 そして、始めには、夕方だけ来たものが、追々朝から付きまとって、夜眠ろうとでもすると、寝させまいとして、途方もないいたずらをする。喉を〆《しめ》に掛ったり、息もつけないように口を閉《ふさ》いだりして、叱りつければちょっと遠のいて、また始める。
 そんなにされながらも、イレンカトムは、ただ声と、気合《けは》いだけを相手にして、怒ったり、怒鳴ったりするだけなのである。
 理窟を云って追い払おうとすれば、なかなか負けずにやり返す。
 こうなっては、彼もどうかしないではいられない。一生懸命になって、聞いただけの昔話の中から、声ばかりの化物に就ていってあるのを漁り始めたのである。
 考えて考えた末、彼はとうとう、子供の時分父親から聞かされた、コロポックルという小人の話を思い出した。

        七

 イレンカトムが、父親から聞いた話と思い合わせて見ると、自分に掛るものは、どうしてもコロポックルという、小人らしい。
 何故なら、その小人はいろいろな術を知ってい
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