って居た。
 独立する資力がないばっかりに、地主の思うがままにみじめな生活をさせられて子供の教育も出来ず、二度とない一生を地主に操られて、働きへらして飼殺し同様にさせられて仕舞う。
 小作をしないで暮すと云う事は農民皆が皆の希望だろうけれ共、地主に飼殺しにされた親達は又それと同様の運命を子供に遺して、その苦しい境遇から脱し得るだけの能力は与えなかった。
 彼等、哀れな農民の上に運命の神は絶大の権威《けんい》を持って居るのである。
 泣く泣く堪えきれない不満を心に抱きながらも、暗い運命に随うよりほか仕方はないのである。
 追いかけ追いかけの貧から逃れられない哀れな老爺が、夏の八月、テラテラとした太陽に背を焼かれながら小石のまじったやせた畑地をカチリカチリと耕して居る。其のやせた細腕が疲れるとどこともかまわず身をなげして骨だらけの胸を拡げたり、せばめたりして寝入って仕舞う、そのわきから掘り返された土は白くホコホコに乾いて行く様子は都会の生活をするものの想像できないみじめな有様で、又東北のやせた地に耕作する小作男を見ないものには味われない、哀れな、見る者の胸さえ迫って来る様な痛々しいものであ
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