る。
 斯う云う農民の住居は多く北から南へかけ東から西へと通って居るやせ馬の背の様な形の石ころ道をはさんで両側に並んで居る。
 里道の中央が高いので雨降りの水は皆両側の住居の方へ流れ下るので、家の前の、広場めいた場所の窪《くぼ》い所だの日光のあまり差さない様な処は、いつでも、カラカラになる事はなく、飼猫の足はいつでもこんな処で泥まびれになるのである。
 小作人でも少し世襲的の財産めいたものが有るものなんかは、馬なども、たまには持って居るけれ共、その馬小屋と云うのは、四方は荒壁で馬の出入りに少しばかりをあけて菰《こも》を下げ、立つ事と眠る事の出来るだけのひろさほか与えられて居ないものである。
 空気の流通と、日光の直射を受ける事がないから、土面にじかに敷いた「寝わら」だのきたないものから、「あぶ」や「蠅」は目覚ましい勢でひろがって、飛び出そうにも出処のない昆虫はつかれて小屋に戻って来る馬を見るとすぐその身を黒く包み去るのである。
 昼は悪い道に行きなやみ、夜は、虫共に攻められる馬は、なみよりも早く老いさらぼいて仕舞うのである。もし斯う云う生活さえさせられなかったなら、この種の良い、三春馬
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