を動かして居る。「くるみ」を破《わ》り切ったので、今度は茶を出して美濃紙で張った「ほいろ」の様なものを、炉の上にのせた中にあけ火を喰わせ始めた。
折々手にすくいあげて少しずつこぼして工合を見る。ザラザラ……ザラザラ……と云う音にしばらくは菊太の低い声もかき乱されるけれ共、自信のある菊太はなお話しつづけ、その音が止《や》んだ時には又、ききともないその願事が、はてしもない様に続いていや応なしに耳に入るのである。
煙草の火が消え、茶にさす湯が冷《ひや》っこくなっても菊太はやめ様としない。
到々祖母は根まけが仕出す。
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「お前のまけて呉れまけて呉れには、ほんとうにいやになる。いつになったらそんな事を云うのを止めるんだろう。毎年毎年御前がいやな事をきかせない年はないじゃないか。あんまり不作で御前の手に負えない様なら、もう田を作るのをやめてもらおう。
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いやな顔をして祖母が斯う云い出すと菊太は少し力づいた調子で又繰返すのである。
祖母は若い時処々を歩いたのでいろいろな言葉を使う。けれ共小作人を叱る時、商人の悪いのを怒る時はきっと東京弁を使った
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