て、島《しま》の伯父家《おじげ》にも、お鳥が実家《さと》さも、不義理がかさみやす。確かに御年貢だけは取れやした。
けんど、岩佐様さあやる銭《ぜに》が無《ね》えで去年の麦と蕎麦粉を売りやしたで、もう口あけた米一俵しか有りましねえで……
御隠居様、ほんに相すまねえでやすが一俵だけまけてやって下さりませ。
来年は、どうでもして返《な》しやすかんない、御隠居様。
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此事以外菊太の云う事はないのである。
幾度繰り返しても只この中の一つ二つの言葉をかえる許《ばか》りだけれ共、どんな事が有《あ》っても、「七十日」と「十円」を抜かす様な事は決して決して金輪際《こんりんざい》無いのである。何の抑揚もなく、丁度|生暖《なまぬる》い葛湯を飲む様に只妙にネバネバする声と言葉で、三度も四度も繰かえされてはどんな辛棒の良いものでもその人が無神経でない限り腹を立てるに違いない。
斯うなると、菊太と祖母は只|根《こん》くらべである。つまる処は根の強い菊太がいつもいつも甘《うま》い事になって仕舞うのが常である。
祖母は、自分の聞きともない願事に、なるたけ気を腐らせまいと絶えず手か体
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