ながら、わきに座って居る。
話そうと思った事をあらまし話して仕舞うと、次に話す事を考えでもする様に、体に合わせて何だか小さい様に見える頭を下げて、前歯で「きせる」を不味《まず》そうにカシカシかみながら、黙り込んで居る。
百姓などで、東京のものの様に次から次へと考えずに話をするものが有ったら、それは大抵善い方に利口ではないものである。
他人の事を悪し様に云い、一寸したものをちょろまかさない位の農民は、大抵この男の様な様子をして話すものである。
菊太は沈黙の間に話の順序を組たてるのである。出来るだけ哀れっぽく、哀願的に聞える様に苦心するのである。
考えて居る間も、他の百姓の様に、故意《わざ》とらしい吐息《といき》をついたり、悲しい顔付をして見せるでもなく、只、ボンヤリ気抜けの仕た様に考え込んで仕舞うのである。自分の満足した考えを得るまで必[#「必」に「(ママ)」の注記]して口を切らない。そんな時には、益々頬のたるみが目につき、小さい眼は倍もショボショボになって居るのである。
しばらくだまって居たっけがやがて頭をあげて、小さい庖丁をつかって居る祖母の手許を見ながら云い出した。
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