菊太の子供達がいやがって居る地主だと云う感じが電《いなずま》の様に速く胸を横ぎって、たまらなく不愉快な、いやあな気持になった。
何も、地主だから罪人だとか何とか云うのではないけれど、其の日は甚助の家の子供を見て来たので訳もなくいやな気持がしたのである。
菊太の家の子供達も、あんなにして暮して居るのだろう。
私達が行ったらどんな顔をするだろう。
斯うした、貧しい、この頃の様に不作つづきの年では余計地主と小作人の感情の行き違いが多いのである。
私はだまって菊太の話を聞こうとした。
菊太は何でもない様なポカンとした顔をしてボソボソと低い声ではなす。
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「御隠居様、
今年も亦思う通り実りがありませんない。
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斯うして話は始まりいつはてしがつくかと思うほど長く長くつづくのである。
菊太の出来るだけの弁舌を振って、彼方此方《あっちこっち》、実入《みいり》の悪かった田の例をあげる。
処は何処で、何と云う名の小作人の田では去年の三ケ一ほか上らなかったとか、誰それの稲は無駄花ばっかりでねたのは少しほかなかったとか、そう云う事をあきるほど云
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