まり愚痴っぽいからでもあった。
願い事――ほんとにそれは幾年も幾年も前から同じ願い事ばかりこの男は持って居た。小作男の願事と云えば云わずと知れた、米をまけて呉れである。
此男は、いつもいつもその願い事をもって袷時分にはきっと来、来るたんびに皆に嫌われながらも自分の望をかなえて行く、馬鹿の様で馬鹿でない男であった。
此の男のあずかって居た田は、そんなに悪い地ではないらしい。
他の小作男に見つもらせても、小作米だけは不作でも十分あがる面積と質を持って居た。
けれ共どうしたものか、毎年上るべきものが上らない。納めるものを納めないで自由な暮しをして居るかと思えばそうでもなく、甚助の家よりもっと酷《ひど》いと云う話を聞いて居る。
行って見た事もないから、どうしてそんな事になるのか分りもしないけれ共、毎日毎日働いて居るのに取れる筈の米の取れないのは私達では不思議に思える。
地主と小作人などはお互に都合の良い様に仕合ってうまく行きそうに思えるけれ共、実際は、なかなかそうは行かず、丁度、資本主と職工の様に絶えず不平と反抗的な気持が混《ま》じって居る。
私は菊太の顔をみるとすぐ自分等が、
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