の不幸つづきで、こんな淋しい村に、頼りない生活をして居るのだと云う事をきいて居るので、その荒びた声にも日にやけた頸筋のあたりにも、どことなし、昔の面影が残って居る様で、若し幸運ばかり続いて昔の旧家《きゅうか》がそのまま越後でしっかりして居たら、今頃私なんかに「お婆さんお婆さん」と呼ばれたり、僅かばかりの恵に、私を良い娘だなんかとは云わなかっただろうなんかと思えた。
 松の木の根元にころがして置いた「負籠《おいかご》」に刈りためた草を押し込むと、鎌をそのわきに差し込んで、
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「甚助がさあ行って見ますべい。
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と云うので、私も物珍らしい顔をして後から附《つい》て歩いた。その時まで、私は甚助って云う百姓の家はどれだか知らなかった。けれ共、それはすぐそこに裏口のある、私が先刻《さっき》っから見つづけて居た子供ばかりの家であった。遠慮もなく入って行く婆の後から、自分も中に入って、今まであすこで見て居たより、もっとひどい様子にびっくりした。
 さっきは満足な畳だと思って見たのは「薄縁《うすべり》」とも「畳」ともつかないもので「わら」の床《とこ》のある処
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