下げ]
「あないにして食うても、美味《うま》かんべえかなあ。何も彼も餓鬼等の中《うち》がいっちええわ、なあ、お前様。
 お前様みたいな方は、若いうちも年取りなっても同じなんべえけど、己等みたいなものは、婆《ばば》になったらはあ、もうこれだ、これだ。
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と変な笑い方をして手を左右に振った。
 けれ共、この婆には、実の子が二人もあって皆男で今は村で百姓をして居るのだから、こんな草刈をたのまれたり、人の水仕事を手伝ったりしないで、かかり息子の家で孫の守りでも仕て居たらすみそうに思えた。
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「お婆さん。何故、息子《むすこ》の処へ居ないんだい。
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 私は、かなり曲った腰と、鎌を石でこすって居る、今にもポキーンと骨のはなれそうにかさかさの手をながめながら云った。
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「はい、お前様、うちの息子は皆正直ものでなし、けれど、此村の風《ふう》で、自分の持ち畑とか田がなけりゃあ、働ける間《うち》、働くのがあたり前になっとるでない。
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 此の婆が、生れは越後のかなり良い処で片附《かたづい》てから
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