兄弟の中半分が叫びつかれ、泣きつかれた時、いつとはなしに「喧嘩」はやんで仕舞った。一人が先ず始めて皆《みんな》がそれにつれられて働き出した「喧嘩」は一人がいやになると皆もいつとはなしにする気がなくなって仕舞うものである。
各々《めいめい》が思い思いの処に立って、夢からさめたばかりの様に気抜けのした、手持ちぶさたな顔をして、今まで自分等のさわいで居た処を見て始めて、折角《せっかく》盛り分けた薯の椀の或るものはひっくりかえり、いつの間にか上った鶏が熱つそうに、あっちころがし、こっちへころがし仕《し》てこぼれた薯を突ついて居る。斯う云う、何とはなし重苦るしい手持ぶ沙汰《さた》、間の悪い沈黙を破ったのは、一番きかなかった額の大きな子であった。
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「己《おれ》食《く》うべえ。
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一人何か仕だすと子供等は皆木の椀を取りあげて勝手にてんでんばらばらの方を向いて、或る者はしゃくりあげながら、或るものは爪でひっかかれた蚓《みみず》ばれをながめながら、味もそっけもない様に、ボソボソと食べ始めた。
私のわきで婆さんも見て居たものと見えて、
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