私の居る、今は何も作ってない畑地に向って居る。
 この二つの入口だけであと天窓ほかない此家の内部は屋外からのぞいた明るい眼では、なかなか見られないほど暗く陰気である。
 野菜の「すえ」た臭《にお》いと、屋根の梁の鶏の巣から来る臭いが入りまじって気味悪く鼻をつく。
 暗さになれてよく見ると、五坪ばかりの土間の一隅には朽ちた「流し」と形ばかりの「かまど」がある。
 そのわきにじかに置いた水桶のまわりは絶えて乾くと云う事はないらしくしめって不健康な土の香りとかびくささがいかにもじじむさい。
 馬鈴薯と小麦、米などの少しばかりの俵は反対のすみにつみかさねられて赤くなった鍬だの鎌が、ぼろぼろになった笠と一緒にその上にのっかって居る。
 鶏にやる瀬戸物を砕いた石ころが「ホウサンマツ」を散[#「散」に「(ママ)」の注記]きらした様にキラキラした中にゴロンとだらしなくころがって居る。
 梁《はり》にある鶏の巣へ丸木の枝を「なわ」でまとめた楷子《はしご》が壁際に吊ってあってその細かく出た枝々には抜羽《ぬけは》だの糞だのが白く、黄いろくかたまりついて、どっか暗い上の方でククククと牝鶏の鳴いて居るのさえ聞え
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