は縦中横]

 村の南北に通じた里道に沿うて、子供沢山で居て貧しい小作男の夫婦が居るあばら屋がある。
 町に地主を持って居て、その畑に働いて居るのだけれ共、段々に人数はますし、ゆとりのあるほど沢山とれる年がないので、夫婦は日の出るから暗くなるまで、畑地の泥《どろ》にまみれて食うためにばかり働いて居るのである。
 盆、正月にも、新らしい着物は作れないと云う事だ。働いても働いてもゆたかな暮しが出来ないので、幾分かすてばち気味に、少し金が入るとすぐ何かかにかにつかって仕舞うので、よけい切りつめた暮しをしなければならないらしい。
 私はその小作人の家のすぐの処で草を刈《か》って居る婆さんとその裏にぴったりよった処にある木の根っ子に腰を下して、膝の上に頬杖を突いて秋の初めの太陽の光に鋭く反射する鎌の先をながめながら下らない話をして居る。婆さんは此処の貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]な事をしみじみ同情する様な口調で話してきかせた。
 話をきいて私はつと家の中を見たい気になり、木の根っこから乗り出して裏口から半身を家の中へ入れる様にして中の様子を見ようとした。
 三尺位の入口は往来に面し裏口は今
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