って顔ばかり出して、まだからっぽで居る弟共の二つの床を見て居ると、あたりの静けさにさそわれて、気持も、しっとりとなって、唇が何だかパサパサするのをしめしながら、いろいろな事を思う。
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 勿論この熱で私の命のなくなる様な事は有り得ない事である。
 けれ共、いずれ一度は、死ななければならないにきまって居る。
 なろう事なら、海の荒れで死んだり、汽車にひかれたりしては死にたくないものだ。
 そいで又、出来るだけ永い間、世の中に活動して居たい。
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 何だか世の中が味気なくて早く死んでしまいたいと云って居る人でさえ、いざ死ぬ時が来たと云って大恐悦で、何の悲しみなしに死ぬ人はないだろう。が、悲しみがなくて死ねる人は頭が死んで居るから、悲しくなくて、死ねるのである。
 私など、今死ぬなんかと云ったら、どんなにまあ泣く事だろう。
 ちょんびりも死にたくなんかない。
 私はしたい事が、山ほどある。
 私の行末は、明るくて嬉しい事ずくめである。
 こんな事は、勿論、まるで雲をつかむ様な空想ではあるが、これから先、いいにしろ、悪いにしろ、どうせぶつかって見なけれ
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