りはしまいかと云う心持になって、おずおずと母の処へ行く。
 そうすると、私はきっと母に云われる。
 第一夜更ししてのむべき薬をのまなかった事、只一寸の間、足袋なしで居た事を皆、この熱の原因として責められる。
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「お前は、求めて病気をして居るんだから。
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 そう云われるのが何よりつらい。
 熱の出たと云う事よりも苦《くる》しい事である。父は、あんまりの心配から、腹立たしい様に、
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「それは、大病の元なんだからね。
 青くひょろひょろになって肺病なんかんなったって、
 私は見舞になんか行かれないんだ。
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と云う。
 私は、ポロポロ涙をこぼしてきいて居なければならない。
 母がそう云うのも、父が云う事も、心配してくれるのだと云う事は分りきって居ながら、何だか、それほどには云わないでも、と云う気がする。
 ほんとうに何でもない、只の風だ。
 私はそう思って居ながら、父の云った事なんかを思い出すと、身も世もあられない様な思がする、のである。
 キニーネをのんで、ひとりで、寝部屋に行って、厚い毛布の間に包ま
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