は、遠縁をたどって神戸の方へ見習いに出ている。そこにも、自分の幸福をさがし求めている娘の心持がある。
 五燭の電燈で仕舞風呂に入っているお縫の頭の中から、これらの考えは消えなかった。
 レートクリームのかすかな匂いをさせてお縫が中の間に来たときは、おさやも加わって、一しきりうつらうつらの醒めた頃合であった。正一が、店のところで、煉炭火鉢の上へ跨りかかるような恰好をし、モジリを着た男と何かかけあっている。
「マアそう云わんと、ちょっとやっつかわせ。手伝《てご》うするもんはいるんじゃけに……」
「あすは、買い切りじゃがで……」
「一日二日はくり合わせますけ」
「さア――無理じゃと思うなあ……」
 押し問答の後、男はそこに置いていた自転車のライトをとりあげて出て行った。正一が、
「なんぼこまいかて、家一軒で四杯ちゅうことがあるけ」
と電燈の下へ戻って来た。
「なんで?」
「柳下の郵便局のおっさんが死によって、保坂へその家を引くんじゃそうな……二十四円で請合えと云いよるんじゃ」
「そりゃいけん」
 おさやが、坐り直すようにして首をふった。
「無理であります。柳下の家は見ちょりますが、こまうはあ
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