猫車
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)炬燵《こたつ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)大分|臥《ね》てじゃけ、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ちさ[#「ちさ」に傍点]の籠をお縫にわたした。
−−

 紺唐草の木綿布団をかけた炬燵《こたつ》のなかへ、裾の方三分の一ばかりをさし入れて敷いた床の上に中気の庄平が眠っていた。店の方からその中の間へあがった坂口の爺さんは、別に誰へ声をかけるでもなく、ずっと炬燵のうしろをまわって、病人の枕元へ行った。枕元は二枚の障子で、隅に昔風な塗り箪笥がある。下の方の引出しはおさやの襦袢や小ものなどが入っているが、上の方の引出しには病人の見舞にと町の親戚からくれた森永ビスケットの罐などもしまわれているのである。坂口の爺さんは、自分の目的にばかり気をとられている人間のはたに無頓着な表情を血色の冴えない顔いっぱいにしながら、箪笥へ手をのばして、その上のラジオをねじった。
 病人の頭の真上で、ラジオは大きな音で唸り出した。その音でぼんやり薄目をあけて彼を見上げた庄
次へ
全37ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング