ねこ》でも起き上るときのように手足を一緒くたにドタドタと直二が起きて行って、兄のすぐ頭の上にあるラジオをまわした。洋楽につれて、顫えを帯びたソプラノの独唱が聞え出した。ふた声みこえそれをきくと正一が、
「ギャーか!」
と気むずかしそうに云った。
「ほか出して見い」
直二は兄に云われるとおり手当りばったり針をまわした。いきなり賑やかな三味線がとびこんで来て、八木節に似た唄が入った。それには誰も何とも云わない。直二は父親をまたぎ越すようにして蒲団の元の場所へ行き、そこへ又ころがった。
ジャカジャン、ジャンジャンという三味線の響は、お縫の洗いものをしている土間から暗い村の夜の中へまで響きわたって行く。主題歌なんかは時々自分でもうたう正一が、ラジオの洋楽というと消すのはどういうのであろう。一つしか年のちがわない素朴な直二は、お縫から見ると子供っぽく思えるし、さりとて、三つ上の正一の気持には、男のせいかお縫には分らない節々があった。意味はわからなくてもヴァイオリンや笛の音が、美しいメロディーで流れるのをきいていると、時には眠くなりもするが、概してお縫はいい心持がした。そういう洋楽の音は、お縫
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