ルで、飯茶碗を片っ方にもったまま、箸をもっている手で汁碗を逆手にもったりして、余念なく食べている。
やがてお縫が後片づけに土間へ下り、兄弟は中の間へ行って父親の両側にねまった。正一は父親の掛布団をひっぱって自分の腹へもかけるようにして右っ側へ。直二も湯から上って来ると、力仕事で急に大人びた体に合わしては少年ぽい絣が荒すぎる長着姿で、左っ側へ。一日の疲労と満腹とで若い兄弟はどちらものうのうと体をのばし、夢と現の境である。
庄平にとっては、今というときがあるからこそ単調な一日をどうやらしのいで来ている。血気の旺《さかん》な稼ぎ手の息子らに左右から押しつけられ、温泉にでもつかったようにじっと仰向いておとなしくしていたが、暫くすると、庄平は萎びた指で、
「アレ」
と弱々しく云って自分の頭の上の方を指した。
「なんで」
寝ころがったまま正一が頭をあげてその方角を見たが格別新しく目につくものがない。するとあっち側の直二が片膝ついて起き上って、父親の顔の上に自分の顔を押しつけるようにしながらきいた。
「なんで、お父はん、アレちゃ、なんで?」
「アレ」
「ラジオか――ラジオどすか」
当年仔《と
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