きを二つした。それは、おがむというより神様の目をぱっちりさまさせる音のようにはきはきしている。
「あーッあ」
 ひとりでに抑揚のある声が出るほどきっかり頭を下げておいてから、足早に庄平のねている中の間をぬけ、台所前の六畳へ来て勢よく戸棚の唐紙を引あけた。手のはずみで左側の唐紙をあけたりするときもあって、そうすると戸棚の中から古い経木の海水帽だの、とじめがきれてモミがこぼれるまま放りこんである枕だのが現れる。おさやは、物も云わずぴしりとそっちを閉め、右手の唐紙をあけ直した。そこに仏壇があった。仏壇の内には吊り燈明があるが、火の用心のためにふだんはそれをつかわず、電燈から豆電燈がひきこんである。それをねじって、今度はともかくその前に坐り、同じように活気のあるせわしさで鐘を二つ鳴らした。数珠を左手の先にかけて、南無南無と称え、ここでも、
「あーッあ」
と抑揚をつけて頭を下げる。
 おさやは台所の土間の方へ向って、そこで水仕事をしているお縫に声をかけた。
「まだ帰っちゃこまい?」
「まだです」
「あ。――ちごうたか? 正らすぐききわけてどこの車か当てよるが、私にゃてんと分らん」
「さア……ちが
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