へザアザア湯をくみ出して、その中へかさばる洗物をつけ、ギッギッと押えつけた。ほんの暫くそうやっておくと、おさやはすぐ丸い棒をふりあげて、しぶきが顔にはねかかるのをかまわず力一杯バンバン、バンバンたたき、もう一つかえしてこっちを叩きつけ、もうそれですんだことにして、お縫にゆすがせる。おさやは上気した顔でせっかちにバンバンやりながら、
「大きいもんはこれが一番ええ。朝鮮人からも習うことはあるもんじゃ」
 お縫はおかしくなって、しずくのたれる古ぎれを竿にひろげてかけながら思わず笑った。おさやは本気な相好で、まるでバンと一つくらわせさえすれば、洗い物の方でよごれはさっと吐き出すという約束でも出来ているように、確信をもって、簡単にくらわして安心している。それはいかにも活気横溢の気短かいおさやらしい愛嬌である。
 クスクス笑いながら竿をかけ代えようとしたら、物干竿をかける棒の二又のそれに荒繩でくくりつけられている松の枝に、小さい青い松ぼっくりが一つくっついているのが可愛らしくお縫の目にとまった。そしたら丁度その真上の明るい夕空に金色の星が出ているのにも気がついた。どちらも小さく綺麗なその二つの天の
前へ 次へ
全37ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング