くなったのだけれど、順平は、そうは云わず、壁はよく乾かして上塗りせにゃと、壁土についての一見識を快活に披瀝するのであった。
 国広屋の一つの気風でもあるのだが順平は、いつも先へゆきすぎ早すぎる自分の思惑を、土地柄にあわせてゆこうとはせず、同じ損でも、思い付きが進みすぎていてする損は男のすたれではないと云った。そして、絶えず何か一攫千金の思い付きがありそうに、或はそれが実現するときでもありそうな気配が順平の立居振舞からにおっていて、家のもの皆がそれにつられ、常に半信半疑ながらもその間に益々茂って行く屋敷の雑草に、痛切な傷心も誘われずお縫も育って来た。

 無花果の木の下の小舎から出た白い七八羽の鶏たちは、さもうれしそうに半ば羽ばたきながらかけ出して、溝流れのふちで草を啄《ついば》みはじめた。隣りのハワイがえりの爺さんがこしらえている麦畑を荒さないように、短い棒切れを片手に鶏どもを見張りながら、お縫は、この伯父の一家と自分のうちの生活とは、何という気分のちがいだろうと思った。順平が今度儲けたら、というときは、きっと息子や娘たちに向って、お前らにもと何か買ってくれそうな楽しい話をするのが癖で
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