信用も傷つけた揚句やめてから、僅か四五年あとにやりはじめた佐伯は、同じ事業で今では一財産をつくった。
屋敷は荒廃して、昔代々そこで油を搾っていた作業場は、元のところにがらんとした壁と屋根とをのこして建っている。別棟の二階には油製造につかった麻袋を織る機台が組立てられたまま蜘蛛の巣が張られている。いくらか織りかけの布が挾まれているままでもう何年そうやってうっちゃらかされているだろう。お縫は小さい時分から、それを見ながら雨の降る日はそのよこでままごと遊びをした覚えがある。
収拾のつかない破綻が落ちている倉の外壁や青草にまで滲み出ているようなのに、順平は、町から買って来る繻子足袋をはいて、そこだけはしっかりしている新建ちの座敷で、小さい急須から小さい茶碗にとろとろと茶を注いでのんでいた。そこから見える中庭だけは丹念に手入れされていて、苔は美しく日をうけて緑色であった。池に金魚が泳いでいた。厠に床の間がついていてそこに刷りものの松園の美人画と香炉とがおいてある。その新建ちの座敷の縁側には都会風な硝子戸が入っているが、床の間や欄間の壁は今に中塗りのままで何年かを経た。そこまでやりくりがきかな
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