呼んですきなほど使いよるって来て、一遍でもこちらの身を思うてじゃったか。いいかげん面白うなくなるは当り前じゃ」
お縫は、娘の感情で父親の述懐を忘れ得なかった。その忘れ得ない感情のままで、庄平のまるで反対の解釈から出る様々の仕うちを見ているというこみ入った伯父姪のいきさつにおかれているのであった。
海沿いの村の暖い春の日光は、ほしいままに繁っている雑草の中に、建ちぐされかかった三棟の大鶏舎をゆったりと永い日がな一日照していた。台所の裏の三和土《たたき》のところには、埃をかぶって大きな孵卵器が放りこんだままにある。こちらの村住居ときまったとき、順平は広い屋敷の地面から思いついてこの近隣では類のない大仕掛けの養鶏を思い立った。名古屋へ上の息子を講習にやったり、名古屋の方から専門家を招んだりして暫く最新式な養鶏に熱中したが、眠っている村では採算がとれなくて、しまいには雇い男がこっそり鶏を抱え出して飲んだくれたりする始末となってやめた。
順平の思惑は、いつも村に流れて来る時勢より三四年は先を行く塩梅になった。そのために大損をして兄庄平と大揉めしたバス会社の経営にしろ、順平がすっかり損をして
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